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Steve Earle 「Washington Square Serenade」 [Today's Album]

一度だけNashvilleを訪れたことがある。
当時、伸びるにまかせた長髪と髭、ツギハギだらけのデニムという出で立ちでアメリカを回っていたのだが、音楽の町、Nashvilleには私のようなカッコの若者はおらず、裕福そうな年配の小奇麗な白人のみであった。行くところに行けばそうでない地域もあったのだろうが、居心地が悪くて一泊もせずに逃げだした。

「Washington Square Serenade / Steve Earle」 (2007)
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Washington Square Serenade

Washington Square Serenade

  • アーティスト: Steve Earle
  • 出版社/メーカー: New West
  • 発売日: 2007/09/25
  • メディア: CD

たまにはタイムリーな新譜を・・・
2度目の登場になってしまったが、相次ぐ今秋の大物リリースからまずは裏のボス、Steve Earle。

(過去記事→ Steve Earle 「The Mountain」) 

私が最初に聴いた彼のアルバムはジャケがヘビメタのような「Copperhead Road」、その後アコースティック・アルバムやブルーグラス・アルバムなんかもあったわけだけど、それらを除けばとにかくその姿勢は一貫して反体制。アルバムによって多少偏りはあったものの、必ず“怒り”というものが前面に押し出されていた。

ところが今回はちょいと様子が違う。まず見た目。私がこれ以前に彼の映像を確認したのは2004年。そのころ既に減量には成功していたが相変わらずの鋭い目つきでアウトロー臭を発散していた。ところが本作で見られる彼の写真や映像では減量のリバウンドが頭に来ちゃって前髪は孤立無援の離れ小島、ヒゲは伸び放題、おまけにメガネ。で、悟りを開いた哲学者のように穏やかな眼つき。いや紙一重でホームレス・・・又は変質者・・・。

さてNYに移住しNew Westからの一枚目となる本作、肝心の音の方は・・・

ここ数枚のスタジオ・アルバムのような攻撃的な音は少し成りを潜め、シンプルででマイルド。歌詞には相変わらず怒りのメッセージが込められている物もあるのだけど、表現の仕方が丸くなっている。顕著なのは激しく歪んだエレキの音が全く聴かれないこと。また本作のギターは全てSteve本人に依るものというのも珍しい。十八番のマンドリンに加えてバンジョーも会得した模様。

プロデュースはDust BrothersのJohn King。ルーツ系よりHip-Hop、オルタナなダンス・サウンドを得意とする人。Hip-HopといってもTone-LocやBeastie等ソリッドな音のアーティスト中心だし、Beckや、Jack BlackのTenacious D等を手がけてきたこと、そして今までのSteveの音作りを考慮すればそんなに不思議ではない。本作でもトラディショナルなフォーク・ロックがモダンな技術で味付けされている。今までの彼のファンには全く問題がないと思うが、「スクラッチ・ループ、サンプリング、ラジオヴォイス等のJohn Kingの音作りが許容範囲か否か?」がルーツ・ロック・ファンにとって評価の分かれ目であろう。因みに私はループにはループにしか出せない癖になるグルーヴ感があると思っているループ肯定派。勿論使いどころと音作りのセンスは必須だが・・・。

このような変化を生んだ要因としてNYへの移住も一つの要素だが、なんと言っても幸せな結婚生活とは縁遠かったSteveにそれをもたらしたAllison Moorer抜きでは語れなさそうだ。

①「Tennessee Blues」 アコースティックなフォーク・ロック。John Kingのドライなリズム・ループがクール。彼がキャリアをスタートさせたNashvilleに別れを告げる、MCAでの1st収録の「Guitar Town」へのアンサー・ソングだ。
②「Down Here Below」 やはりこれもリズム・トラックに特徴がある。深めのコンプ処理がなされた「パツーン」というスネア、アコギのリフに息遣いまで聴こえるような生々しいトーキング調のヴォーカルが乗る。サビはポップというのとは違うが非常に耳に残るメロディーを持っている。愛らしいAllison Moorerのハーモニーも効果的。詩からも悟りのような物を感じる。
③「Satellite Radio」 少しブルージーでヘヴィー、だが以前ならこのような曲には過度に歪んだエレキが入っていたのだが・・・。ヴォーカルも決してがならない。間奏部ではなんとメロトロンの音が・・・。
④「City of Immigrants」 NYのことなのだろうか。移民の多く住む町を称えるかのような異国情緒溢れる曲にパーカッション、Bamboo FluteがLatin風の色を添える。ライナーには"Fuck Lou Dobbs"の文字も見られるし、ボーナスDVD中で語っているようにSteveは移民たちに対して寛大な考えを持っているようだ。これもブリッジ部で挿入され、そのまま最後のサビ部でも繰り返されるAllison Moorerのパートの存在感が凄い。
⑤「Sparkle and Shine」 これはAllisonに出会えた喜びを素直に表現したラブ・ソング。
はいはい、確かにAllisonは"Sparkle"で"Shine"ですよ。でもあんたの頭も"Sparkle"で"Shine"だよ・・・。
⑥「Come Home to Me」 名曲「Goodbye」を髣髴とさせるようなアコギのアルペジオ主体の切ない曲だ。ここではオルガン、ベースといったシンプルなバックと例のドラム・ループが彩りを添える。
⑦「Jericho Road」 う~ん、何故かJoe Elyの「Boxcar」を思い浮かべてしまう、4ビートを刻むベースが印象的なマイナー調の曲。かなり宗教的な意味合いを含んでいそうだ。確かJoe Elyのアルバムでは「Boxcar」の次の曲が「Jericho」だったが・・・・。
⑧「Oxicontin Blues」
⑨「Red Is The Color」
この2曲はフォーク・ブルースにJohn Kingの現代的なサウンドをミックスといった感じであまりNYらしさは伝わってこない。詩も前者は明らかに田舎の貧しい労働者一家を歌い、後者はメッセージ色が強く感じられる。
⑩「Steve's Hammer (For Pete)」 いつの日か『歌で怒りを表現する必要がなくなる日』が来ることを願う、古いプロテスト・ソングのような感触を持った曲。サブ・タイトルはPete Segerだろう。ラストは皆で歌って盛り上げる。これもPeteの手法の踏襲。
⑪「Days Aren't Long Enough」 昔からこういうメロディアスな曲はあったが、Allison Moorerというパートナーを得てより感動的に響く。まるで悪魔と天使のデュエット。今までSteveのベスト・デュエット・ソングはLucindaとの「You're Still Standin' There」だったが・・・。Allisonの少し太めの声質がこんなにSteveに合うとは・・・。全篇ハモりっぱだが決して出すぎず引っ込みすぎず、素晴らしい!お得意のハープも聴ける。
⑫「Way Down In The Hole」 アルバムのラストを飾るのはアルバム中唯一の他人の曲、NYの酔いどれ詩人Tom Waitsの「Franks Wild Years」(87)収録曲。正直この頃のTom Waitsは“ダミ声で訳わからんことをガナリまくる変人”みたいなイメージしかなくてあまり聴き込んでいません。ここではシンプルなブルーズを16ビートでアレンジ。Tomのはもっとかったるくて、眠くなる~と思ったらあの奇声で神経を逆撫で・・・みたいな感じだったような・・・。

ボーナスDVD付きの盤も同時に出ており、こちらではSteveが如何にNYから触発されたかなどと語っておる映像と共に、Allisonとのセッションも納められているので熱心なファンはこちらをどうぞ。しかし何故かAllisonがSteveを見つめる眼差しに無性に腹がたったり、逆にSteveがAllisonを見る目つきが変態にしか見えなくてこれは微妙なボーナス。

もちろんSteveらしさは随所に感じられるのだが新たな局面を迎えているのは間違いない。この変化が吉と出るか凶と出るかはもうしばらく様子を見なければわからないが、Allisonの大きな愛の存在無しではこのアルバムは有り得なかったであろう。

 "In the next life, the first thing I'll do is find Allison before anyone else does and then I'll carry her away with me to live in New York City."

そうこうしているうちに表のBossも入荷・・・。


 Video! 「Tenessee Blues / Steve Earle」

Video! 「A Change Is Gonna Come / Allison Moorer」

Video! Bonus DVDを編集した物。


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